(宮城県)国立大学法人宮城教育大学

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【目的・ねらい】

将来中等学校保健体育教師となる受講学生にオリンピック・パラリンピックを素材とした体育理論学習の授業づくりと実践を行わせることで,オリンピック・パラリンピックの意義を理解させるとともに,オリンピック・パラリンピック教育の実践的指導力を養成する。

【実践内容等】

(実施内容)
平成28年度・後期「保健体育科教育法B」(2年生対象)を以下のスケジュールで進めた。
講義のねらい:中学校において3時間の実施が必修化されている「体育理論」の授業づくりを「オリンピック・パラリンピック」を題材に行う事を通じて,中等教育段階における体育理論授業の意味を理解するとともに,オリンピック・パラリンピック及びこれを通じたスポーツについての見方・考え方の形成方法を学ぶ。
第1回 オリエンテーション,グルーピング
第2回 授業づくりの基礎理論① 教育課程の構造,体育とはどんな教科か
第3回 授業づくりの基礎理論② 教科内容・教材・教具,授業づくりのすじみち
第4回 教材研究の成果発表① ネタ(素材)と中身(教科内容)の提案
第5回 授業づくりの基礎理論③ 指導案の構想・書き方,発問づくり
第6回 オリンピック・パラリンピック授業づくり① 発問づくりと授業構想(相互発表)
第7回 教材研究の成果発表② ネタ(素材)と中身(教科内容)の再提案
第8回 オリンピック・パラリンピック授業づくり② 実施授業の本時案づくり
第9回 オリンピック・パラリンピック授業づくり③ 指導計画の練り直しと模擬授業の準備
第10回 オリンピック・パラリンピック授業づくり④ 本時案づくり,発問の練り直し
第11回 模擬授業① スポーツにおける競争からみるスポーツマンシップとフェアプレー
第12回 模擬授業② ドーピング問題を通じてこれからのスポーツのあり方を考える
第13回 模擬授業③ スポーツとグローバル化
第14回 模擬授業④ 性の多様性から考えるスポーツのあり方
第15回 講演 オリンピック教育の意義と課題(山口大学名誉教授 海野勇三氏)

以上の授業づくりを踏まえて,以下の日程で宮城教育大学附属中学校の各学年で体育理論の授業(1時間)を実施した。
2017年2月8日  ドーピング問題を通じてこれからのスポーツのあり方を考える(1学年)

2月9日  スポーツとグローバル化(2学年)
性の多様性から考えるスポーツのあり方(1学年)

2月16日 スポーツにおける競争から見るスポーツマンシップとフェアプレー

(実践上の工夫点、留意点等)
実践上の工夫としては3点挙げられる。
第一点は,授業づくりにおいてオリンピック・パラリンピックを題材として(ネタとして)取りあげる上で,単に「オリンピック(パラリンピック)でこんな事がありました」とか,「オリンピックの理念は,すばらしいのです」といった表面的な理解に終わらせるのではなく,題材として選択した事柄の背景にある歴史・理念・対立や葛藤を掘り起こし,子どもたちの多様な見方・考え方を捉えうる視点を用意させたことである。そのためにも受講生たち同士による調査・討論活動を重視したことである。
第二点は,中学校におけるオリンピック教育(総合的な学習の時間として合計30時間の取り組み)を指導した海野氏による講演を企画したことである。中学校における実践の紹介と実践づくりのプロセスで大切にしなければならない点(子どもたちのオリンピックやスポーツに対する見方・感じ方の自己形成を促す教師の教材研究の方法・指導過程の構成)を位置づけたことである。
第三点目は,受講生の学習をオリンピック・パラリンピックの学習と模擬的な授業づくりにとどめるのではなく,実際に中学生を対象とした授業経験を用意したことである。そうすることで受講生は,オリンピック・パラリンピック教育が,知識や価値意識の単純な「伝達」ではなく,多様な見方・考え方をもつ中学生の葛藤や対立を引き出しながら,スポーツの価値を個性的に獲得していくプロセスであることを理解することが可能となった。

(成果)
受講生のほとんどが高校までに「体育理論」の授業を受けた記憶を持っていない。また,多くの教員養成課程においてスポーツ専門科目(特に,人文・社会科学系科目)を十全に保障できていない状況の中で,彼らはスポーツに対する見方・考え方を鍛え直す機会を持てずに来ている。そのことは当然,オリンピック・パラリンピックの意義や現代的な問題点についての理解の不十分さとなっている。
しかし,「中学生に実際に授業を行う」というセッティングを前に,オリンピック・パラリンピック,そしてスポーツ文化についての知識及び見方・考え方を問い直さざるを得ない状況におかれた。最終レポートにおける「オリンピック・パラリンピックが社会の様々なことと結びついているということがわかった」という叙述に典型的に示されていることである。またオリンピック・パラリンピックを題材とした体育理論の授業づくりの経験を通じて,「体育が教科として存在し,教師が行うものということは,そこには技術や体力の向上を上回る学びがなくてはならない」とオリンピック・パラリンピック教育の意義をつかんだ受講生も複数いた。
また,授業の対象となった中学生にしても,発問に対して多様な発言を行い,また,自らの意見の矛盾に気づくなど,オリンピック・パラリンピックを題材として,スポーツについての個性的な見方・考え方を形成していく契機を与えられた様子であった。

【オリンピック・パラリンピック教育の実施に伴う問題点】

大学におけるオリンピック・パラリンピック教育の基盤には,体育原論や体育史,体育社会学といった専門科目の知識が必要となるが,現在の教員養成系学部において,これらの科目を十分に保障するだけのマンパワーは存在しない場合が多い。加えて,さらに土台となるであろう受講生の体育理論に関する知識の欠落も重大である。中学・高校での体育理論実践の確保が喫緊の課題となるであろう。