(宮城県)気仙沼市立松岩小学校
(宮城県)気仙沼市立松岩小学校
【目的・ねらい】
○ 本校は,東日本大震災の大きな被害を受けた地域にあり,将来への夢をもち,力を合わせて地域づくりを進めていくことができる児童を育成することが,学校,保護者,地域の願いである。
本事業において,スポーツがもつ可能性に気付かせながら,将来への夢をもつとともに,共生の精神をもちながら地域をつくっていこうとする心を育てる取組を行う。
【期待する効果】
○ オリンピック・パラリンピックに興味をもち,スポーツのよさに気付くとともに,運動技能を向上させる。
○ 夢をもって努力することが,自分自身の人生を豊かなものにすることに気付き,将来への夢をもつようになる。
○ 障害がある方々の生き方への共感がうまれ,地域の皆が等しく生き甲斐を求めて生きていく社会の実現に向けて考えるようになる。
【実践内容等】
(実施内容)
Ⅰ スポーツの基礎的技能の向上
1 水泳技能向上学習(夏季休業中の水泳教室開催と体育の時間の学習)
(1)「松小サマースイミング教室」対象:1~6年児童の希望者
オリンピック種目である水泳に興味をもたせるために,夏季休業前にオリンピックの水泳について担任から話をした。さらに,夏季休業中には,オリンピアンの水泳のコーチである一木成之先生や一木先生と関係のある方々の指導による「松小サマースイミング教室」を開催した。
(2)「めざせ!スイミー」対象:1,2年児童
低学年児童に,もっと泳げるようになりたいという気持ちを高めるために,指導の方法を工夫した。「めざせ!スイミー」というテーマで,「長く水に潜ること」「できるだけ遠くまで進むこと」を目標に設定させ,体育の時間の学習において,水泳技能の向上を目指した練習に取り組ませた。
2 投てき技能向上学習(体育の時間の学習並びに休み時間) 対象:3~6年児童
(1)「スローイングフォームを身に付けよう」
オリンピック・パラリンピック種目である陸上(投てき)や各種ボールスポーツの基本となる「投げる」動作の基本を身に付けさせるために,校庭にスローイングロープを設置し,自由練習に取り組ませた。
また,室内でも投げることが可能な用具を使い,体育館において,休み時間や体育の時間に正しい投げ方が身に付くように投げる練習をさせた。
Ⅱ パラリンピックと障害者スポーツについて理解を深める講演とスポーツ体験
1 パラリンピックと障害者スポーツについて知り,スポーツの魅力に気付く
(1)「パラリンピックを知ろう」対象:1~6年
パラリンピアンを取材した「はばたけ新聞」(朝日小学生新聞)を活用し,パラリンピックについて知らせるとともに,パラリンピアンの記事から,障害者の生き方やスポーツの魅力について考えさせ,スポーツが人生を豊かにするものの一つになることや夢をもって努力することの素晴らしさなどに気付かせた。また,オリンピック・パラリンピックに関係する本を図書室等に置き,学級活動で活用したり,児童が自由に読んだりできるようにした。
(2)「車いすバスケットボール講座」対象:1~6年児童
車いすバスケットボールチーム「宮城MAX」の岩佐ヘッドコーチと菅原選手,三浦選手に来校していただいた。岩佐ヘッドコーチから,パラリンピックと障害者スポーツについて話していただき,障害がある人たちも健常者と同じようにスポーツを楽しみ,意欲的に活動していることを伝えていただいた。
また,菅原,三浦両選手には,車いすバスケットボールのデモンストレーションをしてもらうとともに,4,5年生の児童には,競技用車イスによるバスケットボールの体験もさせていただいた。二人の選手から,人間の可能性の大きさを感じさせてもらうとともに,努力して困難を克服しながら人生を豊かに生きることについて学ばせていただいた。
車いすでも体育館へと移動できるように,6年児童とともに設置した簡易スロープ
(実施内容の続き)
Ⅲ 福祉施設訪問・交流活動
1 幼児や障害のある方,高齢者等との交流から思いやりの心を育てる
(1)「みんないっしょに」対象:2年児童
第2学年の生活科「地域を知ろう」の学習で,地域内にあるいろいろな施設を見付ける活動を行った。その学習の中で特別支援学校の存在に気付かせ,自分たちと同じ年齢の子供たちが学習していることを知らせ,交流したいという気持ちを高めた。そして,実際に支援学校の児童と交流する活動を取り入れ,障害のある児童と接することにより,障害の有無に関わらず,誰とでも楽しく過ごすことができることを実感させた。
(2)「福祉の心を学ぼう」対象:6年児童
高齢者施設,保育所,特別支援学校などを訪問し,施設で働く人の様子や話から,福祉とは何かを考えさせた。その上で,施設にいる人たちとの交流活動を児童に考えさせ,実際の交流活動を行った。このような活動を通して,障害者や高齢者,乳幼児などの様々な立場の人に対する理解を深め,誰にとっても暮らしやすい環境がある地域について考えさせた。
Ⅳ 学年(学級)を単位としたスポーツ競技会の開催
1 自分たちができる種目で大会をし,「スポーツをする・応援する」楽しさを味わわせる
(1)「学年(学級)オリンピック」対象:2~6年児童
スポーツの魅力である「目標に向かって努力する素晴らしさ」「スポーツをすること,みんなで応援することの楽しさ」などを味わわせるために,学年に応じたスポーツ種目を考え「学年(学級)オリンピック」と題して競技会を行った。
各学級(学年)内で4チームを作り,目標をもって練習したり,互いに競い合う楽しさを味わわせたりするために,大会本番まで各自あるいはチーム毎に練習ができるようにした。
そして,投てき(ジャベボール投げ),サッカー,ロープジャンプなどを種目とする競技会を行った。
(実践上の工夫点、留意点等)
○ できるだけ全学年の児童を対象として行う。
○ 地域の人との交流を大切にする。
○ 実際に体を動かして活動する場面を多くする。
○ 既存の学校教育活動に本事業の趣旨を加味して行うよう工夫する。
(成果)
1 オリンピック・パラリンピックへの興味・関心の高まり
アンケートでは,4~6年生の76パーセントの児童が,2020東京オリンピック・パラリンピックに関心があると回答した。特に,車いすバスケットボールチームの選手と直接交流しながら体験した4年生と5年生は「興味がある」が91%と高かったのに対し,交流が少なかった6年生は,「興味がある」が53%であった。直接交流することによりオリンピック・パラリンピックへの関心が高くなったと言える。また,実施後の意識調査では,実施前に比べ興味が高まったと回答した児童が全体の7割近くに達した。
2 スポーツをすること,応援することへの意識の高まり
4~6年生の85%の児童が,スポーツをすることが好きだと回答した。また,スポーツをみることや応援することが好きだと回答した児童は82%であった。さらに,実施後の意識調査でも,全体の6割以上の児童が,以前よりも,スポーツをすることに加え,観ることや応援することに興味をもち,好むようになったと回答している。また,児童の感想などから障害者スポーツの魅力に気付く児童も増え,障害の有無に関わらずスポーツは楽しいものであるという意識が芽生えてきている。
3 夢をもつことができる児童の増加
「叶えたい夢があるか」という設問について,87%の児童があると回答した。また,実施後の意識調査でも,全体の7割以上の児童が以前よりも叶えたい夢をもつようになったと回答した。パラリンピアンを特集した新聞を活用した授業後の感想に,「自分にはできないと思いこんでいたことがあるが,パラリンピアンの方のように,まず努力を積み重ねることが大事だと思った。夢をしっかりともちたい。」という児童のことばがあった。
4 障害者の理解と障害者スポーツへの関心の向上
児童の感想に「私は,障害者はできることが少ないと思ったのですが,車いすバスケットをやっていた二人はとても前向きでネガティブにならない人たちでした。障害のある人は大変だけど,その分かっこよくて楽しいことも見付けられることが分かりました。」と記されていた。アンケートでは,「からだの不自由な人やお年寄りの方も,楽しめることがたくさんあると思うようになった。」と回答した児童が6割以上であり,多くの児童の認識が,障害をもつ人は大変だというだけのものから,用具や道具を利用すれば,健常者と同じように様々なことに挑戦したり楽しんだりできることや,スポーツを一緒に楽しむことができるというものに変わった。
5 協力して成し遂げることへの意識の向上
高齢者福祉施設や支援学校等との交流活動を行った6年生は,様々な人と交流することやグループで相手の立場に立った活動を考えて実践することを通して,協力して活動することや誰かの役に立つことへの意識が高まった。アンケートでは,「だれかのために役立ちたいと思いますか」について,6年児童の85%がそう思うと回答し,「協力することが大切だと思いますか」については96%が思うと回答した。さらに,「目標を達成するために,いろいろな人と協力することができますか」について,89%ができると回答した。このように,体験や交流により,協力して物事を成し遂げることへの意識が高まった。
【オリンピック・パラリンピック教育の実施に伴う問題点】
1 オリンピック・パラリンピック教育を行うための教材
指定校1校だけでなく,地域でオリンピック・パラリンピック教育の推進を行うために,地域内で共有できる教材(図書やDVD)が教育委員会等に備わり,リスト化して貸出しができるようになるとよい。
2 オリンピック・パラリンピックの魅力を伝える人材を派遣するシステムの構築
本年度の取組から,オリンピアンやパラリンピアンなどと直接交流することが有効であることが分かった。しかし,人材を依頼するにあたり,どこに問い合わせたらよいのか,どのように交渉すればよいのかに戸惑った。協力していただけるオリンピアンやパラリンピアンの方を地域ごとにリスト化し,窓口を作ることによって,依頼がしやすくなり,より効果的な活動が進むと思われる。